カマドマ伝説―情熱の恋
民謡「殿様節」より
今から約170年ほど前の話である。祖納村に住む石垣高端は、役人として舟浮村に赴くことになった。当時舟浮にはカマドマという評判の美しい乙女がいて、村から高端の世話係を任されていた。「殿様節」によると、高端はかの歌仙と謳われた藤原在平に勝るとも劣らぬ美男子で、頭のはげ方の特徴から「殿様」と呼ばれていた。また、カマドマの方も八重山中さがした所で他に並ぶ者のない美しさであり、絵筆にも描けない程であったという。その美男美女の二人はやがて恋仲になり、互いに愛し合うようになっていった。 | |
| 舟浮集落の一角にひっそりと建つ「かまどまの碑」 |
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ところが二人の仲に水を差すような事が起きた。僅か一年足らずの任期で高端が海を隔てた祖内岳の麓にある紙屋に、監督として赴かねばならなくなったのである。紙屋とは、紙を作る所で、当時和紙を製造し、これを蔵元(八重山を治める役所)や各村の番所(村を治める役所)に送っていたという。二人は泣く泣く別れ別れになり、高端は愛するカマドマを置いて舟浮を去って行った。恋する二人にとって会えぬ事ほど辛い事はない。寝ても醒めても浮かぶは愛しい恋人の姿である。だが、祖内と舟浮の間は陸続きではあるが道路はなく、所々に川もあって、舟でなければ行けない所である。時々会うことさえままならない。 | |
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カマドマが恋しい殿様を待ち侘びて眺めていた岬。 |
とうとうある日のこと高端はカマドマ恋しさのあまり、くり舟を傭ってカマドマの待つ舟浮へと向かった。一方、カマドマも想いは同じである。毎日浜辺に下りて、高端の訪れを今か今かと待ち侘びていた。その日は天気も良く波も静かだったので、カマドマは「今日こそは―」と、はやる心で浜近くのクバデサの木の下から、船浮港の向こうにある前差崎の方を一心に見つめていた。するとその前差崎から小舟が一艘現れた。カマドマは喜びのあまり、「ほーら、見えたわ! 殿様の舟よ。やれ嬉しや。」と小躍りして叫んだ。懐かしさとともに殿様と過ごした日々の事が次々に思い出されてカマドマの胸はもう一杯である。「はやく、はやく」と必死にこちらに手招きする。ところがその舟は方向を東南の方に向け出した。舟浮港の奥の方である。どうやらそれは殿様ではなく、祖納村の松田家の加那じいさんが高間牧場へ行く舟のようであった。「ああ、がっかりだわ。」すっかりうちしおれたカマドマであったが、気持ちを 持ち直してまた前差崎に目を向けた。すると、また別の舟が現れた。「今度こそはきっと殿様でありますように・・・」と祈っていると舟はだんだん舟浮の方へ漕いで来る。「ああよかった。殿様の舟に違いないわ。」カマドマはほっとし、高鳴る胸で近づく舟を見た。 | |
| 殿様がカマドマの待つ舟浮へくり 舟をこぎ出した祖内村の海岸。 |
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ところが無情にもその舟に愛しい人の姿は見当らないのであった。すっかり当てがはずれ思い乱れたカマドマは、荒れ狂う夜叉のようになり、傍らのクバデサの木を両手でひしとかい抱き、空に向かって涙でふるえる声で叫んだ。「おう、太陽よ曇れ!」こみ上げる涙は止めどなく目に溢れ、クバデサを抱いたままカマドマは泣き続けた。どれくらい経っただろうか。泣き疲れたカマドマがふと前差崎の方へ目をやると、また舟がやって来るではないか。「ああ、神様。今度こそ殿様の舟でありますように・・・。」カマドマは目をつぶってじっと神さまに祈った。そして、そおーっと目を開けて見ると、舟の上にはまぎれもなく愛しい人の姿があった。「ああ、懐かしい殿様・・・会いたかった!」カマドマの顔は見る見るぱあーっ と明るくなり、その美しい瞳で、ただただ焦がれるように沖の高端を見つめるのであった。そして二人は、高端が舟から飛び下りるのももどかしく、互いにひしと抱き合ったまま、いつまでも白い砂の上に立ち尽くしていたという。この話は、南国娘の切なくも悲しい恋の伝説として民謡「殿様節」の調べにのせて、今に謡い継がれている. | |
参考文献 『西表島の伝説』 那根亮 著
川満育子・文
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祖内集落の前泊の浜から500m沖にあります。
◆まるま盆山の由来
(那根亨著、西表島の伝説から引用)
前泊海岸に建立された文化財指定の碑 | ||||||||||||||||||||||||||||||||